邪馬台国…かつて、そう呼ばれた国が日本にあったが、その実態は謎に包まれている。
その邪馬台国を統括していたのが、神の声を伝える者である、卑弥呼。
卑弥呼は、今日も部屋に引きこもり、国の未来を占っている。
「あ〜、もう。面倒ね。なんで私が、こんなことをしなくちゃいけないのよ。」
薄暗い部屋の中で、卑弥呼は口を尖らせながら、炎に包まれている甲羅を眺めていた。
卑弥呼は、炎が消えるまで、甲羅を見守らなければならない。そのため、一歩も動くことが出来ないのだ。
“ピシ”
甲羅に、一筋のヒビが入った。かなり温度が上がってきたのだろう。
「はぁ。これじゃあ、まだ時間がかかりそうね。今日はせっかく、森の熊さんからハチミツをもらう約束をしていたのに。」
小さな壷を、コロコロと転がす卑弥呼。その壷からは、甘いにおいが漂ってくる。
“ガサ”
卑弥呼が、壷の底に手を入れようとすると、背後から何かが動く音がした。
卑弥呼は驚くどころか、怒りの表情でその音の方を振り向いた。
「もう、遅いわよ!暇すぎて死ぬところだったわ!」
「ああ。ごめんね。ちょっと手間取ってたんだよ。」
入ってきたのは、卑弥呼の弟である、稚武彦(ながすねひこ *通説が色々あり、本当かどうかは不明)。
稚武彦は、おぼんを両手で持っている。
そのお盆の上には、お皿の上にのった四角く刻まれた謎の物体と、コップがのせられている。
まだ幼い顔をしている彼は、危なっかしい手つきで、そのおぼんを卑弥呼の前に置いた。
卑弥呼は、すぐにコップに手を伸ばすと、中に入っていた白く濁った液体を一気に飲み干した。
「ぷは〜!やっぱり、これがないとこんなことできないわよ!」
そして、お皿にのせられた物体に手を伸ばすと、一つつまんで、口に放りこんだ。
グニュグニュと、噛みにくそうな音がする。
「姉さん…いつも思うんだけど、本当にそれっておいしいの?」
おいしそうに口を動かしている卑弥呼を見ながら、稚武彦は顔をしかめながら聞いてみた。
「もちろんよ。亀のお肉は、このお酒と最高に合うわ!」
卑弥呼は、当たり前のように、稚武彦に答える。
「姉さんがそういうなら、いいんだけど。僕は食べたいとは思わないよ。」
稚武彦が、そういいながら立ち去ろうとしたとき、ちょうど炎が消えた。
「あ、待って!お告げだわ!」
卑弥呼は、すぐにお酒を甲羅に浴びせた。すると、急激に冷やされた甲羅は、ビシッと音を立てて割れた。
「じゃあ、すぐにみんなを集めないとね。」
卑弥呼の言葉を松前に、稚武彦はポンポンと手を叩いた。
「はい。お呼びでしょうか?」
すると、一人の女性が、頭を下げて入ってきた。
「ああ。今日のお告げが出た。すぐにみんなを集めてくれ。」
「わかりました。では、広場の方へ集めておきます。」
女中は、バタバタと足音を立てて、部屋から出て行った。
「姉さん。お告げはわかったかい?」
稚武彦が卑弥呼の方を振り向くと、卑弥呼はコクッとうなづいた。
「今日のお告げは…」
「な、なんだって!それは…大変だ!」
稚武彦が、卑弥呼の言葉を聞いて、大慌てで部屋を飛び出した。
「まさか、こんなお告げが出るなんて…」
稚武彦が部屋を出て行った後、卑弥呼はがっくりと肩を落とした。
稚武彦が外へ出ると、すでに国民が広場に座っていた。
「お!稚武彦様がこられたぞ!」
「今日のお告げをお願いします!」
稚武彦が現れると、国民は一斉に騒ぎ始めた。
「みなのもの、静まれ!これより、お告げを伝える!」
甲高い声で叫ぶ稚武彦。すると、国民は一瞬で静まり返った。
重苦しい空気が漂う中、稚武彦がゆっくりと口を開いた。
「心して聞くがよい。今日のお告げは…」
「お告げは…?」
誰かが、ゴクリとのどを鳴らす音が聞こえた。
「鹿の肉を夕飯に食べること!」
「なんだって〜!!!!!!」
「そ、そんな無茶な!」
国民から、落胆の声が漏れる。
今は、動物達が冬眠している冬。
雪がないだけましではあるが、どこで冬眠しているのか分からない鹿を探すのは、大変な事である。
「しかし、それがお告げだ!さあ、今から鹿を探しに行くぞ!」
稚武彦は、石槍を手にすると、森へ向かって走り出した。
「お、俺達もいくぞ!」
国民は、稚武彦の後を追って、森へと消えていった。
そんな、ある日の邪馬台国。次は、どんなドラマが待っているのでしょうか?