「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」

稚武彦、佐和彦、矢常彦に見られているなど、全く気付いていない卑弥呼は、ただひたすら、リンボーダンスを続けていた。

「卑弥呼様…何をしていらっしゃるんだ…」

矢常彦が、あまりにも異様な光景に、口をパクパクとさせている。

「あ、あれは…銀の鹿だけではなく、黄色の熊…それに、太鼓の達人といわれる猿…なぜ、姉さんと一緒にいるんだ!」

稚武彦は、矢常彦とは逆に、伝説の動物達が集まっていることに、驚きを隠せない。

「う、美しい…さすが、我が嫁となる、卑弥呼様!」

佐和彦には、卑弥呼しか目に入っていないのであろう。

三人は、それぞれの思いから、その場から動くことが出来なくなっていた。

「…だめ。手ごたえがまるでないわ。」

やがて、五回ほど繰り返した後、卑弥呼は額に流れる汗を拭きながら、御神木に手を触れた。

「そうか…お告げに間違いはないんだろうな?」

しろちゃんは、棒を地面に落としながら、卑弥呼に質問をする。

「ええ。確かに、林棒団主(リンボーダンス)を捧げよって言われたのよ。」

「でも、御神木は満足していないんだろう?」

いつの間にか、ハチミツをなめているプーさんが、御神木に寄りかかりながら、口を挟んだ。

「ウキ〜!ウキウキ!」

その時、バブルスが突然、手足を激しく振り始めた。

「ちょっと、バブルスくん。どうしたの…ええ!?まさか!」

バブルスは、わずかではあるが、卑弥呼と同様、神のお告げを聞くことができる猿である。

「ど、どうしたんだ?」

しろちゃんとプーさんが、驚きで目を見開いている、卑弥呼とバブルスの顔を見比べる。

「しろちゃん、プーさん、大変よ…」

「ウホホ〜…」

卑弥呼とバブルスが、しろちゃんとプーさんの方を向いた。

「な、何があったんだ?」

「は、早く言ってくれよ。」

その緊迫感に耐え切れず、しろちゃんとプーさんは、二人?をせかした。

「…今すぐ、枝を集めるのよ!火を起こすわ!」

「な、なんだって!?」

卑弥呼の言葉に、しろちゃんとプーさんの声がハモる。

そして、いつの間にかバブルスは、その手に石を二つ持っていた。

「ど、どういうことだ!この森の中で火を起こすなど、自殺行為に等しいぞ!」

「そ、そうだよ!いくら火は神聖だからといって、そんな危険な事は!」

「ウキキ〜!!!!!」

納得できずに叫ぶしろちゃんとプーさんに向かって、バブルスが大きくほえた。

その声は、影で見ていた三人にも、ハッキリと聞こえた。

「うわ!なんて怒りのこもった叫びだ!」

「ひ、卑弥呼様!やはりここは俺が!」

「まて!佐和彦!俺達がどうこうできる問題ではない!姉さんを信じるんだ!」

稚武彦の言葉で、佐和彦は落ち着きを取り戻した。

「わ、わかりました。でも、卑弥呼様に危険が降りかかるようであれば、その時は行かせて下さい!」

「ああ。その時は、俺も一緒に行くよ。だから、今は見守っていよう。」

三人は、再び卑弥呼の動向を見守ることにした。

「バブルスがほえた…そこまでのものなのか!」

「卑弥呼、バブルスが聞いた、神の声とは何なんだ?」

滅多に怒らないバブルスの叫びに、しろちゃんとプーさんは反論することをやめた。

「ええ…林棒団主を捧げることに間違いはないの…でもね…ただの団主じゃ、ダメなのよ…」

「ただの?ま、まさか!失敗したものは、命を落とすといわれる、あの林棒団主を捧げろ、というのか!」

しろちゃんはようやく、ことの重大さに気付いた。

「しろ!もったいぶってないで、教えろよ!」

ただ一匹、何のことかわかっていないプーさんが、しろちゃんに迫る。

「プー。お前も聞いた事があるだろう?炎獄林棒団主を…」

「え…ま、まさか!炎の棒をくぐるという、あの林棒団主のことか!」

「そうよ…失敗したら…みんな…いえ、バブルスくん以外は命を落とすわ…」

単なる太鼓打ちのバブルスには、何の危険も及ばない。そのため、恨めしそうな三人の視線が、バブルスに注がれる。

「ウ、ウホホ…」

苦笑いしながら、頭をポリポリとかくバブルス。

「まあいい。万が一のときは、お前も道連れだ。さあ、覚悟を決めて、枝を集めるぞ。」

大きくため息をついたしろちゃんは、クルッと背を向けると、森の奥へと消えていった。

「それじゃあ、僕も集めてこよう。卑弥呼、バブルスと一緒に、火を起こす準備をしていてくれ。」

「ええ。分かったわ。」

卑弥呼に指示を出すと、プーさんも森の奥へと消えていった。

さあ、ただのリンボーダンスでは満足しなかった御神木!命を顧みずに、ファイアーリンボーをすることになった卑弥呼たちの運命は!?