閉店が決まってからは、それぞれ自分のこれからを考えなければならなくなり、仕事にも身が入らなくなってしまった。
「…まさか、いきなり潰れるとは思わなかったよ…」
俺は、ボーっと周りで騒いでいる子供たちを見ながら、同じようにボーっとしている若い従業員に話しかけた。
「そうよね。私たちならまだしも、先生はつい最近採用されたばかりだものね。」
―先生―
俺だけではなく、ここでは全員先生と呼ばれている。
周りに子供がいることからわかるかもしれないが、俺は、無認可で24時間営業の託児所に勤めている。
…もうすぐなくなってしまうが…
「しかし、この子たちも可愛そうだよな。早く別の託児所を探してやらなければ。」
「そうなのよね。こちらの勝手な都合で居場所がなくなるんだから。早く安心させてあげたいわ。」
と、その保育士は、先ほどからパソコンに向かってブツブツ言っている店長の方を見た。
「わ、わかってますよ。今、近辺でこの託児所と同じような託児料の場所を探しています。」
店長は、俺たちに背中を向けたままで答えた。
その間にも、何も知らない子供たちは無邪気に遊んでいる。
…そうだな。俺たちも被害者だが、子供たちも被害者なんだよな…
そう思った俺は、気を取り直して立ち上がり、子供たちの遊びの中に入った。
しかし、頭の中では今後の生活のことがめぐり、子供たちに集中出来ない。
この近辺には、託児所が多い。子供たちは、すぐに次の託児所が見つかるだろう。
だが、俺たちはそうもいかない。
年度が変わったばかりで、街にはまだ社会の厳しさを知らない新社会人たちが溢れかえっている。
そう、新たな人材を補充したばかりのこの社会に、我々を雇ってくれる所はあるのだろうか?
本来ならば、この託児所の本社がその場所を探す義務があるのだが、従業員一同、いいかげんなこの会社に頼るつもりはない。
それから閉店までの日が近づくにつれ、子供たちは、次々と別の託児所との契約が進んでいった。
そして俺たちは、少なくなっていく子供たちを見ながら、徐々に荷物整理を始めていった。
単なる引越しであれば、不安を抱えながらも期待を抱くのだが、閉店に向けての片付けは、虚しいだけである。
その間にも、俺たちは就職活動をしていたのだが…
「どう?いいところ見つかった?」
年配の保育士が、俺に尋ねた。
「いや、全く駄目だ。」
「ええ!まだ駄目なの!?先生、一人暮らしなのに…」
彼女は、心配そうな表情をする。
「ある程度生活費はあるから、何とかなるが…もう、保育士は諦めるしかないのかもしれないな。」
何気なく答えながら、俺はハッと気づいた。
何も保育士にこだわることもないか…
この思いと同時に、ある偶然が重なることになるとは。
運命とは、恐ろしいものであることに後から気づかされた。