単に質問の電話だったのだが、林の急かすような話の進め方に、戸惑いながら面接へ行くことになった。
「面倒だな、ネクタイは。」
普段、スーツを着る機会がないため、違和感がある。
それでも面接だから、と思い、なんとか我慢する。
場所は、今住んでいるアパートから車で約5分程度。かなり近い。
「こんな近くにあったのか。知らなかったな。」
いつも通る道の、一本奥へ入ったところに、それはあった。
利用しているのは、近所の人や、周辺にある会社くらいであろうと思われる、狭い道沿い。
俺は、面接場所だと思われる建物の横に、車を停めた。
そこは、下手な停め方をすると、公道にはみ出してしまうくらいのスペースしかない。
「まともな駐車場はないのか…建物を大きくしすぎじゃないのか?」
俺は、ブツブツ言いながら車から降りると、まずはその建物を見た。
新しく建てられたばかりなのだろう。クリーム色の外壁はまだ黒ずんでおらず、窓もきれいだ。
3階建てのそれは、まるでマンションのような感じである。
しかし、2階の壁には、”あけぼの作業所”と看板が貼り付けられている。
「…作業所、何だよな?」
俺は、疑問を感じながら、玄関を探した。
玄関はすぐに見つかった。道路に面したところにあった。
玄関までは、スロープになっている。障害者の施設であることから、車椅子でも通れるようにするためだろう。
玄関の前に立つと、自動ドアが開いた。
一歩中へ入ると、右手側には2階へ続く階段、左手側にはドア、目の前には廊下が続いていた。
廊下の奥は、大きな扉が2つ並んでいる。何の部屋なのだろうか。
と考えていると、左側のドアが開いた。
「あの、どちらさまですか?」
ドアから出てきたのは、中年の女性。Tシャツにジーパンと、ラフな姿をしている。
「あ、すいません。今日面接に来た、中村と言う者です。」
俺は、慌てて頭を下げる。
「ああ!中村さんですね。私、お電話で対応させていただいた、林です。」
この人が、強引に話を進めていった林か。
肩より少し長めの茶髪。少々きつめの視線。
なるほど。この人は、こちらの意図を無視して話しを進めそうなタイプだ。
と、俺は勝手に納得する。
「さあどうぞ。今代表を呼んできますので、こちらでお待ちください。」
林は、俺の足元にスリッパを置くと、左側のドアへ手を伸ばした。
俺は靴を脱いでドアをくぐる。
その部屋には、書棚や机が置かれている。ここは、事務所なのだろう。
大して広くないその部屋に、机が2台にパソコンが2台。
書棚は…ラックも合わせれば3台もある。
無理やり詰め込んだ印象を受ける。
「面接室はこちらです。座ってお待ちください。」
林は、右側にある大きなスライドドアを開けると、電気をつけた。
面接室には、白い長机が2台に、椅子が4つ並べられている。
俺は、壁際に移動した。
「では、代表を呼んできますね。」
林は、小走りで部屋を出て行った。
俺は、代表が来るまで立って待つことにした。
5分程待つと、初老の女性が現れた。
「お待たせしました。あら、座ってくださってよかったのに。」
メガネを掛けた小柄な女性は、笑顔で椅子を勧めた。
なぜか、この場所に来たことを、後悔し始めていた。