あけぼの作業所に採用されてから三日目。

俺は、障害者の方が、昼間の休憩に使う部屋にいた。

前日に、休憩室に干した洗濯物をたたんでいると

「よろしくお願いします!」

と、背後から突然元気のいい声が響いてきた。

驚いて後ろを振り向くと、苦笑いしている後藤の横に、中年の女性が一人頭を下げていた。

中年、といっても、それは服装等から判断しただけであり、もしかしたら自分より二つ三つしか変わらないかもしれない。

女性は、それだけ年齢の判断が難しい。

それにしても、元気そうな人である。

「今日から三日間、実習させていただきます、長谷川です!ご指導お願いします!」

振り向いた俺と偶然目が合った長谷川という女性は、俺に向かって再び声を張り上げる。

俺も、まだ三日目の新人だ。

ご指導どころか、こちらが色々教えて欲しいくらいだ。

「中村さん。長谷川さんに洗濯物のことを教えてあげてください。」

後藤が、耳を疑うようなことを口にした。

「え?あ、あの…自分もまだ、来たばかりなんですけど…」

俺は、少々いぶかしげな表情で、後藤に返した。

「ああ、わかる範囲でいいんですよ。それじゃ、長谷川さん。ここが終わりましたら、また声をかけてください。」

後藤は、俺のそんな表情など、意にも介さず、手をパタパタと上下に振ると、調理場へ向かっていった。

「中村さん、何をしたらいいんですか?」

後藤が去った後、長谷川は笑顔で俺の正面に立ち、笑顔で言葉を待っている。

・・・はぁ・・・色々な意味で困ったな・・・

俺も、まだ仕事をよくわかっていない、というのも一つなのだが・・・

長谷川は、かわいい笑顔を見せてくれる。それが、別の困ったことなのだ。

この前の江藤に続いて、この長谷川にも何か魅かれるものがあるなんて・・・

左手の薬指に指輪だってしているし、当然子供もいるだろう。一体俺は、何を考えているんだ。

しかし、俺は平静を装って、長谷川に答える。

「えっと、自分もまだここに来て三日目なものですから、よくわからないんですが・・・」

俺がここまで話すと、長谷川は突然、俺の背中をポンポンと叩いた。

「まだ三日目でも、私より先に働いているんですから、先輩ですよ!頼りにしてます!」

しかも、人懐っこいときたもんだ。

長谷川は、初恋の人と似たようなタイプである。

出勤してくる楽しみが、それだけあるって事なんだよな・・・

あまり気乗りのしない仕事であるゆえに、不憫に思った神様が、そういう楽しみを与えてくれたんだよな。

俺は、そう思うことにした。そうでないと、自分がおかしくなってしまいそうだったから。