それからの一週間は、あけぼの作業所と交流のある施設でのバザー準備に追われ、あっという間に過ぎていった。

そして金曜日。

「そうだ、中村さん。わかくさ園までの行き方、わかりますか?」

バザーの準備のために、みんなが備品のチェックで慌しく動いている中、後藤が話しかけてきた。

わかくさ園とは、バザー会場となる施設のことだ。

そういえば、どうやっていくかなど、まだ考えていなかった。

明後日だと言うのに、のんきなものだ。そんな自分に少々呆れてしまう。

「そういえば…全くわかりません!」

力を入れることでもないだろうに…でも、間抜けな自分に少々活をいれるつもりで答える。

「そ、そうですか。じゃあ、日曜日はここに来て、大内さんと一緒に行ってください。」

後藤は、なぜか力強く答える俺に、少々驚いたらしい。

しかし、あけぼの作業所から大内と一緒に行くのか。

せっかくの休みが潰れるため、実はあまり気乗りしなかったのだが、少しはましになるだろう。

「わかりました。でも、なんで大内さんもここからなんですか?」

俺は、自転車で五分ほどの距離だからわかるのだが、大内は車で二十分ほどかかると聞いている。

そんな面倒なことをしなくても、住所さえ教えてくれれば、自分で調べられるのだが。

「なんでって…お菓子を誰が運ぶんですか?鍵は、自分と大内しか持ってないですし。」

…そういえばそうだ。バザーは日曜日だし、お菓子を持ち帰るわけには行かない。

それまできちんと保管しておかなければならない。

う〜ん、今日はどうも頭が回らないな。何か、引っかかるものがある。

「じゃあ中村さん。朝の八時に、作業所で待ち合わせしましょう。」

横で聞いていた大内が、ニコッと微笑む。

ショートカットにその笑顔は、俺にとっては最高の組み合わせ…

いやいや、彼女には、付き合っている男性がいるではないか。

しかし、日曜日は二人で一緒に…

心の中で、そんな葛藤をしていると、

「あ、僕も一緒に行っていいですか?」

余計な邪魔が入ってきた。

「あ、いいわよ。でも鈴木君、場所わかるわよね?」

江藤と同じ年である、鈴木であった。

「ええ。でもガソリン代がもったいないので。」

その気持ちは良くわかる。福祉系の給料は、その過酷な労働の割には、全く見合ってないのである。

それがわかるだけに、鈴木を突き放すわけにもいかない。

「そうだな。じゃあ、一緒に行こうか。」

俺は、そう返事するしかなかった。

しかし、どことなく安心もしていた。複雑な気持ちが、消え去ってくれると思って。



そして日曜日。

俺と大内、鈴木の三人は、軽ワゴンにお菓子を運び込んでいた。

「ふう、これで最後ね。忘れ物はなし!鍵も閉めたし、行きましょ。」

大内はそういうと、運転席へ乗り込んだ。

さて、俺はどこに座ろうか。

福祉車両となっているこのワゴンは、座席が運転席を含め、三つしかない。

助手席と、一番奥にある座席。

俺が考えていると、鈴木がすぐに後部座席に座った。

「僕は小さいから、ここに座ります。」

鈴木は、身長が160センチあるかないかである。

それゆえに、進んで後ろへ座ったのだろう。

ある意味、余計なことではあった。

助手席…仕事であるからこそ、すんなり座ることが出来るが、これがプライベートだったら…

俺は、雑念を振り払うように頭を横に振ると、助手席に座り込んだ。

「大内さん、お願いします。」

そう、これは仕事なのだ。仕事。さあ、頑張ろう。