荷物を積み込んだ俺達は、大内が運転する作業所の車で、わかくさ園へ向かった。
大内の話では、あけぼの作業所からわかくさ園まで、車で約四十ほどかかるらしい。
四十分か。長くもないし、短くもないといったところである。
俺は、どんな道中になるんだろうか、と楽しみであったのだが、よく考えると…
しまった。何を話せばいいのか、全く考えていなかった。
すでに、出発してから十分は過ぎている。それまで、三人とも無言のまま。
困ったな。俺は、言葉で表現することが苦手である。要するに、口下手なのである。
話題を提供されれば、ある程度話すことは出来るのだが・・・
「私が住んでいるアパートは、この近くなのよ。」
そう考えていると、大内がいきなり口を開いた。
彼女も、何か話題を探していたのだろうか。いきなり自分が住んでいる場所の話を始めた。
しかし、これはある意味チャンスである。どんな返事をするかによって、ここから先の道中がどうなるか、決まる。
よし、ここは・・・
「あ、そうなんですか?僕のアパートから、意外と近いんですね。」
ありがとう鈴木。俺が言おうとしていた事を、先に言ってくれて。
先を越されてしまった俺は、二人に聞こえないように舌打ちをすると、すぐに鈴木に続いた。
「へ、へ〜。じゃあ、俺達はみんな、近いところに住んでいるんだね。」
そこで、俺は一つ疑問が浮かんだ。たいしたことではないが、沈黙が続くよりはいいだろう。
「あれ?確か大内さん、あけぼのまで車で二十分ほどかかるって・・・?」
「ああ。朝は確かに、それくらいかかるのよ。さっき通った橋で、渋滞に引っかかるのよ。」
確かに、今通っている道は、交通量の割りに一車線しかないため、朝の通勤ラッシュ時には、渋滞しそうである。
「なら、俺のアパートからでも、大体車で十分ほどで行けるってことか・・・」
俺は、車の時計を見てつぶやいた。
「いやだ中村さん。細かい場所までは教えませんからね。」
しかし、大内には聞こえたようで、彼女はクスクス笑いながら答えた。
「いやいや、そんなつもりはないって。ただ、近いんだな、って思っただけで。」
まあ、それは半分嘘である。こんな返事が返ってきたら、これ以上アパートの事は聞けないだろう。
惜しかったな、と思いながら窓の外を眺めようと左側を振り向くと、川沿いに木々が生い茂っているのが目に入った。
「あれ?ここは何かの公園なのかな?」
俺が、どちらに聞くでもなく口を開くと、大内がチラッと左を見てから答えた。
「中村さん、ここに来て、まだほんのちょっとしかたってないんだったわよね。あれはね、このあたりで有名な、観光名所なのよ。」
観光名所・・・ああ。そういえば、不動産屋から、近いところに観光名所である公園があると聞いていたな。
大して興味がなかったから、気にもしなかったが、こんなに近いところにあったんだ。
「へ〜、どんなところなんだろう。」
俺が何気なく返事をすると、大内が意外な事を口にした。
「じゃあ、帰りに行ってみる?」
・・・あれ?大内よ。せっかく半日で終わるのに、彼氏と会わなくてもいいのか?