俺は、大内の言葉に期待を寄せた。

半日で仕事が終わった後に、名所へ行く。

後ろに鈴木が乗っているとはいえ、まるでこっそり付き合っている恋人同士のような会話。

いや、それは考えすぎか。

俺は表情には出さないものの、内心期待を膨らましていた。

鈴木は、今の会話が聞こえていなかったのか、無言である。

「あ、あそこよ。ビルの間から、屋上がチラッと見えるでしょ?」

この市にの中心とも言える街の交差点で、信号待ちをしていると、大内が左側を指差した。

「へ〜。あんなところにあるんだ。」

俺は、どれだか全くわからなかったが、感心したのは確かである。

普通、こんな街中に施設があるなんて考えられない。

福祉施設とはいえ、障害のことが分からない人たちにとっては、不安なものに変わりは無い。

だが、このわかくさ園は、幸いなことに周囲の理解を得ることが出来たのだろう。

やがて、車は左を曲がり、わかくさ園の前で止まった。

「あ、後藤さん達がいるわよ。」

大内の言葉通り、わかくさ園の前に後藤と江藤が立っていた。

その後ろでは、わかくさ園の職員と思われる人達が、忙しそうに走り回っている。

「あ、大内さん。交代しましょうか。車を駐車場に停めてくるよ。」

「ええ。お願いするわ。じゃあ、私達は荷物をおろしましょう。」

後藤は、俺達を見つけると、運転席に駆け寄ってきて、大内からキーを受け取った。

俺と鈴木は、車から降りて荷物を運び出す。

大内は、江藤と一緒に先に中へ入っていった。

そんな大内の後姿を見ながら、俺はこのバザーが終わったときの事を考えていた。

「中村さん。行きましょうよ。これ、結構重たいですよ。」

鈴木が情けない声で、俺の背中をつついた。

「あ、ああ。ごめんごめん。ボーっとしてた。」

俺は、我に返ると、いくつもの荷物を抱え、わかくさ園の中へ入っていった。

俺はなぜ、こんなことを考えているんだろう。仕事に集中しないと。

しかし、そんなちょっとした心の緩みが、どんどん広がっていくことになる。