テーブルの上にお菓子を並べ、販売の準備が終わった。開場までは、もう少し時間がある。

「ベランダに行ってこようよ!」

女性陣は、嬉しそうに左手側にあるベランダへ移動した。

こんな街中の建物なんだから、ベランダへ出ても見えるのはビルばかりなのに、と思い、俺はメインであるバザーの品物を見ていた。

「あ、このコーヒーカップのセット、いいな〜。」

俺の目に止まったのは、五客のカップのセットである。一人暮らしである俺には、無用のものではあるのだが…

「後で買っちゃえば?」

すると突然、背後から声がした。

驚いて後ろを振り向くと、そこには大内が笑顔で立っていた。

「あ、あれ?ベランダに行ってたんじゃ?」

キョトンとする俺に、大内は苦笑いをした。

「そうなんだけど、若い子と一緒だと、あまり会話が続かなくて。ほら、私も一応主任だから、彼女も私に話し辛いのもあるし。」

なるほど。それは確かに気まずくなる。だから、バザーを見にきたのか。

俺と大内は、そのままバザー品を見て回った。

まだ開場ではないため、買うことは出来ない。

しかも入り口では、バザーコーナー目当てのお客さん達が、早く開けろと言わんばかりに詰め寄っている。

「これなんかいいかも。」

大内がポツリとつぶやいた。

俺がチラッと見ると、それは小さな籐のカゴ。

「後で買っちゃえば?」

俺は先程大内に言われたことを、そのまま返した。

「え?あはは。仕返しなの?でも、余っていたら買おうかしら。」

大内はその事に気づき、笑いながら答えた。

「お二人さん、これなんかどう?内緒で取っておくけど。」

俺と大内は、まるで恋人同士のような雰囲気を漂わせていたらしい。

バザーコーナーの人が、ニヤニヤしながら夫婦茶碗を差し出した。

「あ、いやいや。俺達は一緒の職場であって、そんな関係では…」

そう言いつつも、俺は内心大喜びしていた。

「そ、そうよ。暇だから、たまたま一緒に見ていただけで…」

大内も、まんざらではない表情で否定している。

ん?彼女はちゃんと彼氏がいたはずだが、やっぱり最初に心を読んだように、うまくいっていないのだろうか?

俺は、思わず今の彼女の心を読みたくなったが、こんな人が大勢いる場所では、倒れてしまうのが目に見えているため、あきらめた。

まあ、俺の気持ちは単なる錯覚だろう。うん、俺は恋愛はしてはいけないんだ。恋愛は絶対にしないんだ。

「そろそろ開場の時間ね。中村さん、行きましょう。」

少し顔を赤らめている大内が、俺の服の袖を引っ張った。

錯覚、だよな…?