”販売コーナーの開場となります。大変混雑いたしますので、お怪我のないようにお気をつけください”
開場の放送と共に、フロアの扉が開かれた。
そして、一斉にバザーコーナーへ向かう来客者。その勢いは、まるで何かに取り付かれているようである。
あの中にいたら、きっと俺なんかは簡単につぶされるだろうな、とのんきにその様子を見ていた。
そう。最初の目的は、バザーコーナーであって、他のお菓子や似顔絵、マッサージコーナーは見向きもされない。
「毎年こうなのよ。すごいでしょ。」
大内が、俺の横で苦笑いをしながら話しかけた。
「絶対あの中には加わりたくないな…」
俺も苦笑いしながら答える。
開場してから十分くらいで、バザーコーナーの主な物は売れてしまい、ようやく開場内が落ち着きを見せ始めた。
「こちらのブラウニーはいかがですか?苦味を抑えてありますので、お子様でも食べやすくなってますよ。」
徐々に、俺達のコーナーにも人が集まり始め、雑談する余裕がなくなってきた。
慌しく動く俺達。お菓子もどんどん減ってゆく。
「ふう、もうこんな時間なのね。順番に休憩を取っていきましょう。」
お客さんが少し減り始めたころ、大内がハンカチで汗を拭きながら呼びかけた。
「そうだな。じゃあ、最初に大内さんと江藤さん、お昼食べてきなよ。」
後藤が、お菓子を並べながら答えた。
「ええ。そうさせてもらうわ。江藤ちゃん、行きましょう。目をつけてるものがあるのよ。」
「え?あ、はい。きゃ!」
大内は、江藤の手を引っ張って飛び出すように開場を後にした。
「そういえばさっき、有名なアイスクリーム屋があった、って言ってましたよ。」
鈴木が、ぽかんとしながら俺に話しかけた。
「ふ〜ん。どんなアイスなんだろうな。あれだけ興奮しているんだから、おいしいんだろうな。」
俺も、少しあっけにとられながら答えた。
「さて、お客さんも少ないし、ここは一人でも大丈夫だろう。俺達も、交代して休憩をとりますか。」
お菓子を並べ終えた後藤が、俺と鈴木の肩をポンッと叩いた。
「あ、はい。じゃあ、俺が最初に残りますので、お二人でどうぞ。」
「ああ、いいですよ。もうすぐ全部売切れてしまいますし。中村さんと鈴木君、お先にどうぞ。」
俺は残ろうとしたが、後藤は笑顔でそれを断わり、椅子に座った。
「そうですか。じゃあすいませんが、お先にお昼をいただいてきます。」
本当は、早くご飯を食べたかった俺と、素直な鈴木は財布を片手に開場を後にした。
一階へ降りると、そこにはお昼を求める人であふれていた。
「どこか座れるところはありますかね。…中村さん?」
食事コーナーを見渡していた鈴木であったが、俺は別のことに気をとられていた。
「ああ、ごめんごめん。あ、あそこに座れそうなところがあるぞ。とりあえず確保しよう。」
俺はすぐに辺りを見渡し、丁度二席空いているテーブルを見つけ、そこへ荷物を置いた。
「俺がここにいるから、先にご飯を買ってきなよ。」
「はい。じゃあ買って来ます。」
鈴木は素直すぎるな、と半ば呆れながらも、俺は椅子に座って辺りを見渡した。
なぜだろうか。大内の姿を探したくなるのは。全く、嫌になってくる。
そう思いながらも、大内の姿を探す俺であった。