マッサージが終わった後、一人になった俺は何もすることがなく、ボーっとするために外へ出た。

忙しそうに駆けずり回っている利用者や職員、ボランティアの学生達を横目に暇そうに椅子に腰掛ける。

みんな、なんでこんなに一生懸命なんだろう?何を目指しているんだろう?

そんな事を考えていると、今やっている仕事に対して、疑問を持ち始めた。

障害を持っている人と平等に付き合うって、どういうことなんだ?

ノーマライゼーションとは言っているものの、それは言葉だけのような気がする。

”お世話をしてあげている”

結局、心の中ではそう感じているんじゃないのか?

ふと、そんな事が頭に浮かんだ。

”〜してやっているのに””〜してあげたでしょ?”

時々、聞こえてくる言葉だ。

まあ、俺もそう思うことはあるのだが。

「やめやめ。俺は真面目に考えれるタイプじゃないんだ。」

俺は頭をブンブンと振ると、飲み物を買おうと立ち上がった。

「あ、そういえばコーヒーカップ…」

その瞬間、バザー会場にあったコーヒーカップセットの事を思い出した。

俺は飲み物を買うのを忘れ、慌ててバザー会場へ向かう。

そこには…まだあった。

「あら。買う決心は付きましたか?」

慌てて走ってきた俺の姿を見て、担当者は待っていたかのように話しかけた。

「いえ。まだ決心はつかないのですが、もう一度よく見たくて。」

俺は、目の前にある箱を手に取りながら答えた。

「じゃあ、袋を用意しておきますね。」

まだ決心がついていないと言うのに、担当者はなぜか大きな紙袋を出し始めた。

「…あ、あの…」

「もう!買っちゃえばいいじゃん!」

突然背後から、俺の優柔不断さに笑っているような声が聞こえた。

その声に振り向くと、いつの間にか大内が立っていた。

「あれ?いつの間に?」

「暇だから休もうと思って戻ってきたんだけど、背中を丸めて悩んでいる人がいたから。」

大内は、ニコッと笑いながら答えた。

「そ、そんなに目立ったかな?」

俺は少し顔を赤くした。

「そうよ。だから早く買っちゃえ!」

大内は俺の背中をバンッと叩いた。

「…決心つきました…」

俺は箱を担当者に渡し、財布から五百円玉を取り出した。

「はい、ありがとうございます。」

担当者は、クスクス笑いながら箱を紙袋に入れると、お金を受け取った。

「良かった。これでスッキリしたわね。」

大内はなぜか、安心したように笑う。

俺は背中の痛みを感じながら、このコーヒーカップは絶対に割らないでおこうと、心に誓ったのであった。