卑弥呼の案内した場所は不思議な空間になっていた。

植物のツタが編みこまれたような壁が頭上まで続いていて、巨大な球状になっている事が覗える。

隙間からは光が漏れていて辺りは明るい。まるで何かの巣か、ツタで作られた繭と言うのが的確な表現かもしれない。

「な、、、今、神殿の扉をくぐったはずじゃ!」

嵐華は驚きながら後ろを振り返るが、扉は影も形も無かった。

その振り返った勢いで佐和彦が突き飛ばされ、壁にぶち当たる。

くの字に曲がりながら壁際にずり落ちた。

「ふふ、嵐華。そろそろ喧嘩を売った相手が、間違えだった事に気づきなさいね」

嵐華を真っ直ぐに見つめ、卑弥呼は両手で持った玉すだれを勢い良く頭上に突き上げる。

「な!!それは、南京玉すだれ!」

嵐華の言葉どおり、玉すだれは卑弥呼の頭上に南京玉すだれ特有の不思議な弧を描いた。

この時代『南京玉すだれ』で会話が成立するのは、人間離れしたこの一人と一匹だけだろう・・・

「ふふ、そのようね」

意味不明な返事を返し、卑弥呼は玉すだれを持ったまま両腕を左右に広げていく。

すると、南京玉すだれが中央から二つに分かれる。それに呼応するかの様に頭上からの光が強くなりはじめた。

嵐華と卑弥呼と、ついでに佐和彦も包んでいる巨大な繭の上部が開放されているのだ。

バッサ!バッサ!"

開放された空間から巨大な『何か』の羽ばたく音が聞こえる。

その音を聞いた嵐華の表情が一変し、黒光りする巨大な体が震え始める。

「ここは!ここは!!!」

「そう、龍鷹(りゅうだか)の餌付け場よ」

卑弥呼は眩しそうに目を細めながら、頭上に開いた巨大な穴から飛来する白く美しい龍鷹の姿を見つめた。

「あとはヨロシクね、モルテン」

モルテンと呼ばれた龍鷹は、黄色いクチバシを大きく開くと、任せろと言わんばかりに「グァグァ!」と鳴いた。

卑弥呼はきびすを返し、扉から出て行くようにしてその空間から姿を消した。南京玉すだれの歌を口ずさみながら。

卑弥呼の背中に、嵐華とモルテンの戦う様な轟音が鳴り響いていたが、扉を閉めるとそこは静寂に包まれた神殿だった。

モルテンの背中に乗り旅をした昔を思い出しながら、静まり返った神殿内部を見渡した。

遠目に稚武彦と凪が、神殿の入り口近くに仲良く折り重なって倒れているのが見える。

下になっている凪の顔が少々苦悶の表情を浮かべているが、思い出に浸っている卑弥呼には関係のないことだった―――

 

日の沈んだ邪馬台国は、祭りのかがり火と華やかな喧騒に包まれている。

女王の弟である稚武彦の婚礼の儀が滞りなく終わり、中央広場から始まった祭りは終わる事を知らないかのようだ。

卑弥呼は広場の中央に組まれた祭り用の王座に深々と座り、遠目に民衆とそれに囲まれて祝福を受けている稚武彦と凪を暖かく見守っていた。

「これでアンタも一人前の漢ってことかしらね、稚武彦」

そうつぶやきながら、酒盃を二人に向けて傾け、それを一気に飲み干した。

「後は、佐和彦と矢常彦にも一人前に・・・」

稚武彦と並び称される戦士の二人の顔がふと浮かび、卑弥呼の顔色が一変する。

「あぁぁぁ!佐和彦!忘れてきたぁ!」

邪馬台国の祭りは、まだまだ続く。

その後、佐和彦が大冒険をくぐり抜け、龍鷹の背に跨り帰還し『龍鷹の佐和』と呼ばれる物語は、また別の機会に。。。