時は15世紀初頭――――。

 場所はフランスの片田舎――――。

 小さな村の、小さな協会で祈りを捧げる少女を天上より見つめる女神が一柱――――。

「う〜〜〜ん・・・・・・この子にしよっかなぁ」

 そう呟くと、女神はおもむろに力をふるい、熱心に祈りを捧げている少女の目の前に天使をかたどった虚像を作り上げた。

「これ・・・そこな娘よ」

「え?だれ?」

 突然、頭上から声が降ってきたため、少女は驚いて顔を上げた。すると目の前には天使が浮かんでいるではないか!

「あぁ!天子様!」

 少女は、祈りに組んでいた両手をさらに強く組み合わせ、平伏する。

「娘よ・・・・・お前に力を貸そう。そうして、成したい事を成すが良い」

「成したい事・・・ですか?」

 少女は再び、恐る恐る顔を上げる。

「そうだ・・・・・お前には、成したいことがあろう」

「私の成したい事・・・・・私・・・・・シャルル様をお助けしたい!」

 少女の瞳には、強い光があった。

「よろしい・・・・・力を貸して欲しいときは、『緋の神』と唱えるのだ」

 その言葉を受けて、少女は真剣に質問した。

「『緋の神』さま・・・?解りました・・・。さっそくですが、『緋の神』さま、シャルル様をお助けするために、まずは何をすればよいのでしょう?」

「え!?ちょっと待ってよ、今、調べるから!」

 天使より返って来た言葉は、予想外のものだった。しかも、中性的だった声が、若い女性の声になっている。

「????」

 少女は、訳がわからずぽかんとしている。と――――、

「そうそう・・・そうだった、そうだった・・・・・ぇー・・・・コホン!・・・・まずは、ヴォークルールの守備隊長ロベール・ド・ボードりゅ・・・ボードリクールに会い、オルレアンの包囲を解くように進言するのだ」

 女性のようだった声は、再び厳かな調子と共に中性的な声に戻った。しかも途中、人名をかんでいる。

「は・・・・はい・・・・わかりました・・・」

 釈然としないものがなかったわけではないが、少女――――ジャンヌ・ダルクはフランスの王太子シャルルを助けるべく、立ち上がったのだった――――。


「ふぅ・・・・・とりあえずこれでこの国も動き出すわねぇ・・・・それにしてもお父さんったら・・・・・人に地上の管理を押し付けて、どこに遊びに行ってるのかしら!」

 手にしていた資料らしきものを放り出し、艶やかな黒髪をかきあげた女神は、額に浮いた汗を拭う。

「地上での勤めを果たしたら、遊んで暮らせるはずだったのに・・・・・話が違うじゃない!」

 ぶつぶつ、ぶつぶつ。女神の文句は果てしなく続く。

「こんなことなら、退屈しのぎに佐○彦も連れてくるんだったわ!」